植物の名前は、ややこしいです
今日から12月です
弊社で落葉果樹や常緑の柑橘の苗を扱っています。12月は落葉果樹苗木の納品、3月中旬からはカンキツの苗木を納品します。この仕事に就いてから、植物の名前で悩まされ、理系wの私からすると、なんで??と思うことがたびたびありましたが、植物に興味を持つきっかけにもなりました。植物の名前の混乱について、お話したいと思います
目次
- ○ 植物の名前は混乱している?
- ・一つの植物に多数の名前
- ・同じ名前で違う植物
- ○ 果実のブランド化により、ブランド名による流通
- ・キンカンの「たまたま」?
- ・「大実」のキンカン?
- ・柑橘のブランド化の先駆けデコポン
- ○ まとめとして
植物の名前は混乱している?
名前とモノは1対1であらわすのが理想と思います。ところが、植物の名前はそうではありません
一つの植物に多数の名前
夏にかわいい花を咲かせる ハナスベリヒユをあらわす名前として
学名 :Portulaca oleracea cvs
科 属名 :スベリヒユ科スベリヒユ属
種(和名):ハナスベリヒユ
流通名 :ポーチュラカ、モスローゼ 等、沢山あります
ハナスベリヒユではありませんが、植物には固有名でよばれるものがあります
固有名 :サクラの銘木に「三春の滝桜」(品種はベニシダレです)等
整理すると こんな感じでしょうか
学名:世界で共通の名前 ※斜体(イタリック体)で表記
科→属→種→品種
和名 :日本での名前 ※カタカナで表記
流通名:商品として広がった名前
固有名:その植物個体の名前
同じ名前で違う植物
地域で呼び名がちがうことがあります
今は、情報の流通性が高くなっているので少ないと思いますが、親方(父)は名前を言って仕入れたら、まったく違う植物が納品されたことが何回かあったそうです
同じ呼び名でも地域により違う植物(種)だったという事です
例えば イヌツゲ(モチノキ科モチノキ属)を三島あたりでは ビンカと呼んだりします
一年草の花苗、ニチニチソウ(キョウチクトウ科ニチニチソウ属)もビンカと呼ぶようです
話していると、どうも話がかみ合わないということになります
植物だけではありませんが、同名異種のリストを見つけましたので、リンクします
果実のブランド化により、ブランド名による流通
最近は、流通名とも違い、ブランド化を目的に品種名とは別名(ブランド名)で流通していることが増え、さらにややこしくなっています
キンカンの「たまたま」?
(画像は農林水産省 品種登録データ検索画面です)
お客様からキンカンの「たまたま」の苗を入れてくれ、「スイートシュガー」の苗はあるか?と問い合わせがあります
ネットで検索すると 「たまたま」や「スイートシュガー」の苗がいくつもあります
ところが、農林水産省 品種登録データ検索で「キンカン」をキーワード検索でしてもヒットしません
そこで、仕入先の生産者に聞くと鼻で笑いながら・・
「たまたま」は、宮崎県で一般的な品種「ネイハ(寧波)キンカン」を完熟させてから収穫出荷したものだよ・・と教えてくれました
「スイートシュガー」も穂木採りして接木、数年間生産してみたけど、それらと同じと思うよ・・(品種は聞きそびれました)
「たまたま」はブランド化した名前でした。JAなどが、条件を付けて品質管理し、ブランド化して価値をアップしよう・・という手法は理解できます。しかし「たまたま」の苗木として「ネイハキンカン」の苗を売るのは、商道として許容を超えていると思います
またこれにより、混乱もしています
ネイハキンカン
Fortunella crassifolia
寧波金柑、別名ニンポウキンカン。品質がよく、生食用に市販されているキンカンはほとんどが本種。果実は球形から卵形で、果重11〜13g
「大実」のキンカン?
流通している「たまたま」等 大きな実のキンカンをみたお客様が、名前を忘れて「大実」のキンカンを仕入れてくれと依頼があったりします
お客様が見たのは「たまたま」かもしれませんが、「大実キンカン」というとチョウジュキンカンで、これは観賞用で食用には適さないので、食べたらまずかった・・ということになります
フクジュ、大実キンカン
Fortunella obovata
別名フクシュウキンカン(福州、福寿?金柑)。観賞用で、果実は大きく果重30〜40g。酸味が強く、食用には適さない
柑橘のブランド化の先駆けデコポン
デコポンの品種名はシラヌイ(不知火)です
これは、デコポンの方が有名になってしまい、通りがよくなってしまっていますが
生産者に「デコポンの苗を」と注文したりすると、こいつはシロウトだな と笑われてしまうかもしれません
デコポン
「清見」×「ポンカン(中野3号)」の交雑種で、頭の部分が出っ張っているのが特徴です。サイズは230g前後で見た目はずんぐりしていますが、甘味が強く袋ごと食べられる手軽さが人気。ちなみに「デコポン」は「熊本果実連」の登録商標で、正式な品種名は「不知火(しらぬひ)」です。不知火のうち糖度13 度以上、クエン酸1%以下のものが「デコポン」として流通し、12~4月頃に店頭に並びます
(果物ナビより引用)
まとめとして
この仕事に就いてすぐ 牧野富太郎著「植物一日一題」(ちくま学芸文庫)を読みました。昭和20年代に書かれた随筆ですが、とても楽しい本です
その中でも、明治以前 中国の書物を読んだ学者が、日本の植物に間違った名前を付けてしまった事例(確か 中国の栗と日本のクリはちがう)等の植物名の混乱を嘆いてました
私もこの仕事で中国の方が柏(カシワ)と言っているのは 常緑の針葉樹(コニファー)で、日本の柏餅を包む落葉樹のカシワではないことを知り、驚いたことがあります
そんな混乱していた植物名に、明治以降 西洋の学名や、科・属・種といった分類が加わり、さらに流通名やブランド名が加わり、また選別された実につけた名前(ブランド名)を 苗木にその名前で販売する業者が居たり・・牧野富太郎先生が嘆いたどころでは無い状況です
弊社では、基本的に 種・品種名(カタカナ表記)でお伝えするようにしています
ブランド名のようですが、2002年に品種登録された「プチマル」という 種なしのキンカンも扱っていますので、お問合わせください